エンジェルを抱きしめる 番外編 04(R18)


 肌をまさぐり、あばらを押すようにして、胸の先端を親指でくじった。
「……んんっ」
 琳がぜんぶ受け止めようと、健気に口を大きく開く。
 壊してしまいたいほどの衝撃が身体を走り抜ける。雷に打たれたように、背筋が奮えた。
 どれだけキスしても足りない。唇、あご、首に鎖骨。噛み付くようにしながら、敲惺も獣のように喘いだ。
 望む答えを返してやれなくて、そんな自分にも腹が立つ。憤りと、やるせなさと愛情が絡まりあって頭の中が嵐みたいになった。
 臍までたどって、足の付け根に指を這わす。琳の呼吸も速くなっている。勃ちあがった性器に食らいつくと、悲鳴に似た反応が返ってきた。
 吸いながら唇を上下させる。琳が泣きはじめる。
 声に煽られて、さらに深く喉元まで挿入させた。
「あ、ああっ……」
 舌で扱きながら、喉で先端を圧迫した。こうすると、琳はどうしようもなくなるらしく乱れに乱れる。
 それを確認してから、達する前に、口から引き抜いた。
「――は、はっ……、あ、あっ」
 痙攣するようにしなる身体を裏返して、腰を引きよせ、小ぶりの尻を両手で包んで揉みあげた。
「あ、あ……、は、あ……っ」
 琳の濡れたペニスの先から、透明な雫が滴る。興奮が胸を締めつけるが、それを抑え込んで、小さな孔に指をあてた。
 琳はこらえるように、顔の横でこぶしを握っていた。
「……ん、んっ」
 自分の下肢を見下ろせば、硬く張りつめ、急きたてるようにして戦慄いている。琳の身体を自分のサイズに合わせるのに、ローションを使って時間をかけた。
 その間に、もしふたりが離れ離れになっている時に、誰か別の奴がこの肌に触りそうになったらどうしようかと、ふいに嫌な予感に襲われた。
 そんなことになったら、すぐに相手を叩きのめしに行くだろう。あごが砕けるほどぶん殴ってやる。あの、エンジュのボーカリストの時と同じように。
 距離ができたら、そのことが一番不安になる。琳が落ち込んでいるときに、傍にいてやれるのは誰だ。自分じゃないなんて考えられない。
 指を引きぬくと、淫らになった場所が、いざなうように収斂した。コンドームをはめて、自分の太いディックを押し当てる。先端でゆるゆると撫でてから、慎重に、貫いていった。
「あ……、は……あっ」
 琳が喉を反らして、圧力に耐えた。
 最近は声の調子で、痛みがあるのかどうかわかるようになっていた。今日は大丈夫なようだ。琳は痛くてもそれを我慢してしまうから、敲惺はいつも細心の注意を払ってことを推し進める。 
「琳」
 滑らかな背中をさすって、声をかけた。琳は奥を暴かれる刺激に捕らわれている。
 浅い呼吸が、敲惺の呼びかけを消していた。
 上体を倒しながら、さらに己を深く挿れる。包まれていく感覚は熱くて締め上げられるようにきつい。琳の身体がくず折れそうになったから、わき腹をつかんで固定した。
「あ、ああっ」
 それが角度を変えて、弱いところを抉ったようだった。内腿を震わせて、か細い声をもらしはじめる。
 敲惺は上体をすこし起こして、琳の下腹へ手をさしこんだ。 
「は、……あ、ふっ」
 勃ちあがったまま泣き続けていた欲望に、指先をからめると、意地わるく裏筋のまわりだけを撫でてやる。と、琳は刺激に細腰を揺らしだした。
「あ、あ、……っ、んん、ん」
 快感に恍惚となる横顔を堪能しながら、突き込みやすい体勢を探して、ゆるく前後に揺さぶっていく。
 肘をついて、もう一方の手で、頬をかくす黒髪をうしろに梳いてやれば、撫でるような仕草にも琳は感じて、うっとりと瞬きを繰り返した。
「琳」
 鈴を鳴らすように、ささやきかける。涼しげなこの名前も、敲惺は大好きだ。
「……ん」
 閉じ方を忘れたように、唇は開きっぱなしだった。  
「琳のこと、愛してるよ」
「……うん」
 じんわりと瞳に涙の膜が張る。ゆっくりと潤っていくのが、見ていてわかった。それが目頭からあふれて、眉間をたどっていく。
 顔の横でずっと握り続けているこぶしに、敲惺は自分の手をかぶせた。
「愛してる」 
 琳の手を掴んだまま、強くのしかかる。肩甲骨に歯をたてながら、自身を解放へと委ねていった。 
 華奢な身体を蹂躙するように己の刃を抜き差しすれば、琳は官能と情動に呑みこまれていく。
 琳が自分をコントロールできなくなる、この瞬間が、いつも敲惺をひどく切なくさせる。どうしようもなく、相手を失うのが恐くなる。
「は……、敲惺っ……。も、もう……」
 琳の声が、高く震え、ビブラートをきざんだ。
「もう、おれ……」
 指で刺激していた性器が、根元から痙攣する。断続的な喘ぎに、敲惺は顔をあげて、琳の最後を見守った。
「あ、い、ぃ……」
 目の焦点が揺らぐのを、自分も昇りつめながら見下ろした。相手を先に天国に押し上げてから、その後を追う。
 小さく、いく、と呟いて、琳は肢体を奮わせた。敲惺の指に、熱を放ちながら。
「……っ」
 蠢く内部に締め上げられて、すぐに敲惺も際をこえた。痺れるような快感が下肢を走り抜けていく。
「っ、はっ……」
 吐精の刺激に、思わず声がもれ、全力疾走した後のように酸素を求めて大きく喘いだ。
 全身から汗が吹きだすのが分かる。うなだれて、琳の背中に頭を預けた。
「……っはぁ、――あ……」
 快感の余韻が、腰の辺りでわだかまり、絞られるような感覚に包まれる。
 退いていくまで何度もうねりが渦を巻き、呼吸が整うまで、そのまましばらく動けないでいた。
「……琳」
 わずかに波打つ背中に、舐めるようなキスを落とすと、んん、と満足そうに鼻を鳴らす。そっと繋がったところを外して、背を向けて始末した。
 ひとり洗面所に行って手を洗い、ベッドに戻る。
 枕もとの琳の横に腰かけた。うつ伏せて眺める琳の目は、蕩けそうになっている。
「水、飲む?」
 手を伸ばして、琳の髪をかきあげた。
 ひたいが露わになると、いつもより幼い顔立ちになる。
「……いらない」
 疲れて眠そうになっていたので、上掛けをかけてやった。無理はさせなかったつもりだけど、体力は消耗させてしまったようだ。
 自分は明日は休日だが、琳はエリシオンの仕事が入っている。このまま今日は休ませてやらなきゃいけないだろう。
「シャワーはいい?」
「……あしたの朝で……」
「わかった」
 コーラのボトルを空にしてから、横にはいりこむ。
 腕枕をしてやると、琳は腕の中に収まってくる。抱きよせて、頭のてっぺんに口づけた。
 ふたりとも、もう何も言わなかった。相手の言いたいこともわかったし、こっちの気持ちも十分に伝わっているだろうから。
 琳のゆるいくせ毛を指先で玩んでいると、そのうちに腕の中からかるい寝息が聞こえてくるようになった。
 頭を持ちあげて見下ろせば、瞼は閉じられ、規則的な呼吸音だけが洩れている。眠ってしまったようだった。もう起きそうにないのを確かめてから、敲惺はそっとベッドを抜け出した。
 裸のままリビングに移って、スマホを手に取る。
 時刻を確認し、電話帳をひらいて、連絡をくれた米国のマネージャーにコールした。



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