彩風に、たかく翼ひろげて 23(R18)


「……ん、ん、ん。ふっ」
 首筋に顔をうめて、うなじを甘噛みしたり舐めたりされると、そのたびに身体の芯に官能の痺れが走る。
「気持ちええか」
「……ん、ん、ぁ」
「いいなら、いいってちゃんと言え」
「……ぃぃ、で、す」
 ふ、と耳元で笑われる。からかうような言い方には余裕があった。迅鷹の手は隼珠の胸から腹をさぐって、だんだんと下へおりていき、臍の近くでひたりととまった。
 隼珠のうなじを刺激しながら、臍の周囲に指治療のようなことをはじめる。かるく押したり、小さなくぼみのまわりをもんだりした。そうすると、臍の奥からチクチクした快感が生まれてくる。それが下腹を伝って、勃ちはじめた性器にまで送られていった。
「……や、な、なんか」
「なんだ?」
「なんか、変な……」
「変? ちがうだろ」
 薄ぼんやりとした目で見あげる。
「いつもここを押すと、感じてただろ」
「え」
「ここに、感じるツボがあるんだよ、お前の身体は」
 言うなり、ぐっと臍のすぐ下を押される。すると腹の奥で、針に刺されたような刺激がきた。
「――あっ」
「ほら、ここだ」
 ぐりぐりと指先でこねられて、経験したことのない快感に襲われる。
「あ、あ、あぁ、や、あぁっ」
 迅鷹の肩を押して逃げようともがいたが、相手は岩のように動かない。臍の周囲だけ苛められてこんなに感じている自分は変になってしまったのか。
「やだ、やだ、これ、変だっ、や、あ、あぁ、っ」
 下帯の中で、男のものがはしたなく揺れる。晒が濡れていく感覚に隼珠は首をふって嫌々をした。
「隼珠、自分の手で、モノを下帯からだせ」
「あっ、あっ、あ」
「扱いてやる。早くだせ」
 このまま達してしまえば、下帯を汚してしまう。隼珠は焦って言いつけどおりに下帯をほどいた。自分で根元をつかんで外にだす。熱く滾ったそれは、先端からくびれにかけてもう濡れていた。
「鷹さん……鷹さん」
 外気にさらされ、小さな孔がヒヤリとする。我慢できず自分で扱いてしまいたくなった。迅鷹が臍のまぎわで、指をグイッと皮膚に喰いこませる。瞬間、下腹にきつい快楽が迸った。
「あっ、あ、――や、それ」
 抗おうと踏ん張ったけれど、稲妻のようなそれは性器まで貫通した。
「――あ、ああっ、ん、ぁっ」
 触れられてもいないのに、隼珠は臍を押されただけで簡単に達してしまった。劣情の証が白濁となって、喜び震える先端から嬉しげに吐きだされる。それを目にするのは耐えがたく恥ずかしかった。
「……ご、ごめんなさ……っ」
 気持ちよすぎて死にそうになりながら、それが罪であるかのように謝っていた。
 こんな粗相にも似たことをしてしまって。快感の余韻が心を苛んでくる。けれど迅鷹は満足そうに唸った。
「扱く間もなしか。どれだけ敏感なんだ」
 精は迅鷹の手のひらにまで飛んでいる。ねっとりと重いそのしずくを、迅鷹は嫌がる様子もなく見つめた。
「他人の手にだしたのは初めてか?」
 隼珠は真っ赤な顔でうなずいた。
 迅鷹はもういちど唇をあわせてきた。下唇を優しく食んで、それから上体を起こす。隼珠の足をひらかせると、少し力を失くした性器と垂れた双珠をなでてきた。
「足をとじるなよ。もっとよくしてやるから」
 隼珠は迅鷹に向けて足をひらき、下半身を全てさらすような恰好をとらされた。とじるなと命令されて、腿に力をこめる。けれど弱い部分を執拗に愛撫されて、いつの間にか、迅鷹の腰に内腿をすりつけていた。
 それを見て迅鷹が苦笑する。
「俺の下帯がほどける。そんなことになったらもう後戻りできなくなるぞ」
 後戻りするつもりなどはないけれど、迅鷹は自分は踏みとどまって隼珠だけ愉悦に溺れさせるつもりのようだった。濡れた右手をふぐりの奥にさしこんで、ぬぷりと体内に沈めてくる。
「あっ」
 驚く隼珠が声を立てるひまもなく、柔くなりはじめた屹立に左手を添えた。そうして上半身を倒すと隼珠の赤らんだ先端をためらいなく口に含む。
「あ――や、ぁ、ひっ」
 目をむいて、何が起きたのかと身を起こした。視界に入ってきたのは、隼珠の秘所を弄りながら男根の先を舐める白城の鷹の姿だった。
「鷹さん――鷹さ――や、やめ、そ、そんな――あ、あ、ああっ――」
 手の力が抜けてぱたりと倒れこんだ。見悶えて逃げようとするが、急所を責められ奥を掻き回され、未知の快感にあっという間に飲みこまれ動けなくなる。
 手足をのたうって逃げようとしたけれど、弱々しい抵抗にしかならない。
 気持ちいい、痺れるぐらいに。頭がおかしくなりそうだった。目の前の光景がぐにゃりとゆがんで、焦点があいまいになる。
「ああ、ああっ、はあっ」
 喘ぎがとめられない。声が一段と大きくなったが、抑えようにも全く無理だった。襲いかかる嵐のような快楽に、全身が痙攣したようにわなないた。
「ああ、いい、いいっ」
「ここか」
 迅鷹の指が、身体の奥でぐりぐりと蠢く。それが、やるせない痛みをもたらしてくる。経験したことのない感触だった。粗相をこらえたいのに、それができないような不思議な感覚だった。
「ここだな」
「や、あ、どしよ、もう、鷹さ、も、だめ、ですっ」
 切れ切れに訴えても、迅鷹の手はとまらない。今達してしまったら、親分さんの口を汚してしまう。それがわかっているのに我慢ができない。
「ああ、ああ、はあっ、ああ、もう、俺――」
 二度目の絶頂に、抗うこともできず追いこまれる。扱かれていた茎を通って、灼熱が這いあがってくるのが感じられた。
 それは相手の舌で温かく包まれた先端から、勢いよくあふれだした。
「ああ、ごっ、ごめ……んな、さい……っ」
 謝りながら際を越える。隼珠は全身を引きつらせて、忘我の快楽に溺れた。
 身をよじるあられもない姿を、迅鷹が上目で満足そうに眺めてくる。
 そうして隼珠の呼吸がしずまるのを待ってから、濡れた唇からものをゆっくりと引き抜いた。舌の先から、とろりと精液がたれる。
「お前が乱れてるところを見ているだけで、斬られた痛みが飛んでくな」
 言いながらゆらりと身を起こした。淡い光の中、下帯一枚で筋肉質の身体をさらす男はいつもよりも逞しく見える。その迫力に、隼珠は際を越えた余韻とともに震えた。
「……鷹さん」
 心臓が爆ぜそうに、早い鼓動を刻んでいる。朦朧とした声で相手の名を呼べば、迅鷹は精に濡れた舌に親指をあててぬぐい取り、目を眇めてさらに笑った。
 肩にのった鷹が汗で艶をおびている。
 色あざやかな禽獣は、主が動けばまるで肌の上で生きているかのように翼を広げた。



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