リカバリーポルノ 06(R18)


 筧が羽純に顔を近づけた。
「今までどんだけ誘っても袖にしやがって。お前はわかってねえよ。俺がどれだけ馬鹿にされるのが嫌いかを。それを思い知らせてやるよ。楽しもうぜ、羽純ちゃん」
 筧が羽純の腕を掴んで、ベッドへと放り投げる。
「――あっ」
 酔っ払っていた羽純は力が入らなかったためか、もうひとりの男に易々とシーツの上で捕まってしまった。
「やめっ……やめろっ」
 羽純がその手から逃げようとする。けれど、背後に回った男から羽交い絞めにされた。
「暴れろ暴れろぉ」
 ひとりがスマホを取りだして撮影を始める。
「撮るなっ。撮らないでくれ」
 羽純が叫ぶも、男らの嘲笑にかき消されてしまう。男たちは建翔の横で羽純のシャツをはだけさせ、下にはいていたものも全てはぎ取ってしまった。
「やめてくれよっ」
 羽純が悲鳴をあげる。建翔は助けようともがいたが、こちらも男に押さえつけられていて身動きが取れない。
「お前らが、ノンケを犯る。俺が羽純をいただく。そのあとで、おい、羽純、ノンケの片想いに突っこんでもらいな。ちゃんと記念に撮ってやるぞ」
「いやっ、嫌だっ」
 筧が羽純の性器を無造作に掴んで、いきなり扱き始めた。
「いやあっ、やっ、あ、ああっ」
 羽純が身をよじって拒否する様を、男らが笑いながら眺める。後ろから拘束された状態の彼は、男らの好きにされるしかなかった。
「この野郎! やめろっ! おい! やめろって!」
 建翔が怒鳴ると、筧が「おい、そっちから先に突っこんで黙らせな」と言う。それで男がふたり移動してきた。ひとりが建翔の肩を押さえ、もうひとりが足首を握る。
 建翔は力の限り抵抗した。ガタイの大きな建翔が暴れだしたので、ベッドがドスンドスンと音をたてて波打つ。慌ててスマホ係も建翔を押さえにかかってきた。
「早く犯っちまえ」
「口ん中にタオル押しこめよ」
 乱暴な声が背後でする。
 冗談じゃない。こんなはずではなかった。
 建翔は手足をばたつかせて懸命に抵抗した。
 その間、横にいた羽純のほうは、馬乗りになった筧にうつ伏せに組み敷かれていた。揺れるベッドの上で、うまく動けないでいる。
 男らが暴れる建翔にかかりきりになっていると、彼らのひとりが低い声で「――おい」と言った。
「こいつ、飲みすぎておかしくなったぞ」
 薄ら笑いで、羽純を指さす。
 見ると羽純は、ありえないことに――放りだしてあったローションを一気飲みしていた。
「こんなもの飲んでやがる」
「気色悪りい」
 男らが笑いだす。
「ならフェラしてもらえ。喉まで滑るぞお」
「……おい、ちょっと待て」
 筧がそれに冷静な声をかける。何事かと男らが笑いをとめた。
「ここにあった、ドラッグ、どうした?」
 手のひらほどの大きさのプラスチックバッグを持ちあげる。見ると、中は空っぽだった。
「知らねえよ」
「さあ?」
 男らの視線が羽純に集まる。建翔も羽純を見た。ローションを空けた羽純はぐったりとなっている。
「まさか、全部飲んだのか」
 筧の顔色が変わった。組み敷いていた細い身体を、急いで仰向けにひっくり返す。
「おい、飲んだのか。この野郎。羽純、まじかよ、死ぬぞ」
 筧が羽純を揺さぶる。けれど彼は唇を引き結び、何も答えなかった。
「くそっ、信じられねえ」
 羽純をベッドから引きずりおろし、バスルームへと連れていく。男がふたり後を追いかけていった。建翔の上には動かぬように、男がひとりまだ跨がっている。
「おい、吐け、吐けっ」
 バスルームから声がした。
「くそっ、吐かねえか、吐けって。――いてッ、こいつ指噛みやがった」
 水を流す音がする。何かがぶつかる音も。怒声も聞こえる。
 しばらく騒々しい様子が伝わってきていたが、やがて青い顔をした筧がバスからひとりで出てきた。
「ダメだ。テコでも吐こうとしねえ」
 筧はウロウロと部屋の中を歩き回りだした。それを、残りの男らがどうするのかという顔で見守る。
「ドラッグはまだ違法じゃない奴だけど、あいつが死んだらヤバくね?」
「けど自分で飲んだんだよ」
「でも、俺らも捕まる」
 すっかり興奮が冷めてしまった男らは、口々に不安をこぼし始めた。予想外の事態に、筧は今までの太々しさが消えてしまい、目に見えておどおどしだした。
「どうするよ? テツ」
 ひとりが筧に、心配そうに問う。
「おい、ずらかるぞ」
 筧はそう一言告げると、バッグを手にして散らばっていたものをかき集めだした。手早くつめこむと、皆に言い聞かせるようにして怒鳴る。
「俺らは関係ねえ。あいつが勝手にやったことだ」
 そして、仲間の背を叩いて、部屋の外へと促した。
「いくぞ。おい、ノンケ、見ていただろ。飲んだのはあいつの勝手なんだからな」 
 建翔を指さして叫ぶと、荒々しく入口へと去っていく。建翔を押さえつけていた男もそれに続いた。
「おい! この野郎! これ外していけよっ!」
 建翔はその背中に向かって声をはりあげた。部屋の先からドアのしまる音がする。ベッドからおりて追いかけようとしたら、再びドアのひらく音がして男がひとり戻ってきた。
 急いで建翔の手錠の鍵を外すと、後ろで呟く。
「外したからな。俺は、外して、助けたからな……っ」
 震え声でそう言うと、あっという間に部屋をでていってしまった。
「羽純っ」
 自由になった建翔はすぐに、バスルームに駆けこんだ。羽純はうつ伏せで床に倒れこんでいた。
「おい、しっかりしろ」
 抱えあげて顔色をみると、真っ青でぶるぶると震えている。口はだらしなくひらき白目をむいていて、声をかけても返事がない。
 建翔は部屋に戻ってスラックスのポケットからスマホを取り出し、急いで救急に連絡を入れた。



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