リカバリーポルノ 25(R18)
「ここから引っ越して、もっと広い家に移ろう」
シャツを首から抜き、ジーンズと下着を引きおろす。靴下も丁寧に捲りとって、裸になった身体にいくども口づけた。
「河原の近くとか、大きな公園のあるところとか。そこでゆっくりすごして、回復を待てばいい。お前のことは俺が全部、一生面倒を見ていく」
「……今仲」
そうして、羽純の好きな場所を舐めてやる。
「……あ」
「俺のそばにいろよ。もうどこにもいくな」
瞳に、涙が宿る。そのまなじりを舐めてやった。
「今仲。ありがとう」
「礼なんて言うな」
「でも、もう決めたことがある」
「何だ?」
唇を重ねつつ、乳首をかるくつねる。
「あっ……俺、少し、海外にいってくる」
「海外? どこへ?」
思いがけない言葉に、顔を離して相手を見おろした。羽純が身を起こして、キスをしてくる。建翔の手を自分の手で包みこんで、先を促してきた。
建翔は耳の下に顔を埋め、首筋を舐めてやった。
「……あ、ん。どこか、人のあまりいない所へ」
「ひとりでか。大丈夫なのか?」
傷心のまま送り出すのには不安を覚える。
「うん。日本にいると、息がつまりそうになるから。誰も俺を知らないところでゆっくり休みたい」
そう言われて、羽純には海外暮らしの経験があることを思い出した。だったら日本よりも心穏やかに休めるのかもしれない。
「そうか。一緒にいってやりたいけど仕事がな」
「うん……、あっ。わかってる。大丈夫。ひとりで人生の休憩をとりにいってくる」
「人生の休憩か」
それもいいかもしれない。
「わかった。じゃあ、帰ってくるのを待ってるから」
「ん……」
「連絡よこせよ。ネットが嫌なら、絵葉書でもいいから」
「うん。わかった」
少しでも前向きになっているのなら。快く送りだしてやろう。ついばむようなキスをすると、羽純も安心したように微笑んだ。
それから、全身をくまなく舐めて、ゆっくりと挿入した。腰を押しあげながら回して、何度も突きあげる。羽純が果てても動きをとめない。声を嗄らすほどに喘がせ泣かせて、奥に自分の証を注ぎこんだ。
羽純が潤んだ瞳で見あげてくる。頬を染めて、肌に汗をにじませて。その姿を、本当に心の底から可愛いと思った。
「元気になって戻ってきてくれ。待ってる」
羽純の目から涙がこぼれる。
かすれた声で、また「ありがとう」とささやいた。
◇◇◇
翌朝、羽純はキャリーケースをひとつだけ抱えて、建翔の部屋をあとにした。
「やっぱり空港まで送るよ」
そう言う建翔に、微笑みながら首を振る。
「いや、大丈夫。ここでいいよ。離れがたくなるから」
羽純が玄関先でスニーカーをはきながら答えた。
「今仲」
「うん」
建翔は框に立って、細い足が靴の中におさまるのを見ていた。
「俺さ……。こんなこと、言うの、不謹慎で最低かもしれないけどさ」
羽純は俯いたまま、静かに呟いた。
「今回のこと、そんなにこたえてはいないんだ」
建翔は目をみはった。こんなにボロボロになるくらいやられたというのに、いったい何を言い出すのか。
「お前とこうなれたからさ。少しの間でも。だから、……それだけで……」
顔をあげて、すまなそうな表情をする。
「ごめんな」
「何言ってる」
抱きしめて、キスをした。
「謝ることなんか何にもないぞ。俺に悪いとか、絶対に思うなよ」
最初の原因を作ったのは自分だ。
「お前は、最後まで、ホントに優しいな」
――違う。お前は俺を美化しすぎている。
けれど建翔は、かつての自分がどれほど身勝手な考えを持っていたのか、それを明らかにすることはできなかった。醜かった過去の自分を吐露するのは、軽蔑されるようで怖かったからだ。
「今仲、お前のこと、好きになってよかったよ……」
笑顔で言う相手に、自分は優しい男のままでいたかった。
「じゃあな」
帽子にマスク、サングラスをつけてドアを出ていく羽純に、魔法をかける。
「帰ってきたらまたセックスするぞ」
顔が隠れていても、それに微笑んだのが分かった。
大きくうなずいて「うん」と答える。
「行ってくる」
「ああ」
建翔も笑顔で送り出す。
ガチャンと重い音を立てて、スチールのドアは目の前でしまった。
静かになった玄関先にしばらく立ったまま、無事に帰ってきてくれることだけを心の中で祈る。
だが、去っていった羽純から、連絡がくることはなかった。
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