彩風に、たかく翼ひろげて 27(R18)


「お好きなようにと言っただろう」
「……へい」
 迅鷹の目には有無を言わせぬ色があった。何か、さっきの会話で、迅鷹の機嫌をそこねてでもしまったのだろうか。
 隼珠は黙って言うとおりにした。起きあがって、片足を浮かす。
「違う。そうじゃない。尻をこっちに向けろ」
「え?」
 迅鷹は仰向けになって、手招きをした。
「それは……」
 一体どういう恰好をすればいいのかと、分からなくなる。
「顔を足のほうに向けて、またげって言ってるんだ」
 瞬きする隼珠の腰を、両手を伸ばしてつかんできた。
「じれってえな。こうだ」
「あ」
 かるい隼珠は、ひょいと持ちあげられ、足を引っ張られて、背中を向けた状態で胸のあたりに膝立ちをさせられた。
「前に手をつけ」
「へ、へい」
 言われて、迅鷹の腰の横に両手をついた。相手の顔に尻を向けた、犬のような体勢に困惑する。
「動くなよ。俺もまだ左手が上手く使えねえんだからな」
「へえ、わかりやした」
 命令され、いつものように返事をした。生真面目な答えに後ろの迅鷹が笑う。
「言ったな」
 そう呟くと、迅鷹は隼珠の浴衣の裾をめくった。くるりと手早く丸めて腰帯にはさむと、下帯だけの下半身があらわになった。
「た、鷹さん」
大きな両手でふたつの丸みを包まれる。びくりと下肢が跳ねた。
「えっ――」
「可愛い尻だ」
あられもない恰好を相手に見せて、内腿が震えだす。
「た、鷹さん、お、俺、こんな行儀の悪いこと、白城の親分さんになんて……」
 焦ると腕から力が抜けていく。迅鷹は隼珠の肌を指先で優しくなでたりくすぐったりしてきた。
「じっとしてろよ。お前の身体の中で、一番やわらかくて手触りのいいところを楽しんでいるんだ。いいというまで動くな」
「へ、へい」
 情けない声にならぬよう気を張るも、気持ちよさにくずおれそうになる。晒で隠された秘所がひくひくと蠢くのが分かった。そうして、若竹のような竿も先端から欲しがりな雫を滲ませている。
 迅鷹が武骨な指先で、狭間の木綿をたどった。ねじれた布を押しながら、ゆっくりと急所を後ろから前へと遊ぶように弄る。
「……ぁ、ァふ」
 出したい。すぐにでも達きたい。こんな、生殺しみたいなまねは勘弁して欲しい。
「鷹さん……も、も、ダメです、俺……」
「達きそうか」
「へ、へぃ」
「お前はこうなったら辛抱がきかねえな」
 苦笑され、それでも隼珠の望みを叶えるために下帯をほどく。むき出しになった尻を両手で引きよせると、自分の顔に近づけた。
「――あ!」
 逃げる間もなく、狭間をぬるりと舐められる。
「あ、ぁ、ああ、やっ……」
 全身が痺れるように反応した。こんな、こんなことっ。
「や、やっ、だ、ダメですっ、ぁ、あ、た、鷹さっ」
 両手でがっしりと腰をつかまれ、拒否することを阻まれる。
「ああ、ああこんな、ああっ」
 舌が隼珠のとじられた場所をこじあけながら進んでくる。頭の中が恐慌と混乱で一杯になった。
 迅鷹は隼珠の声を愉しむかのように片手を男根に絡ませた。ゆっくりと扱いて、時折、手をとめ焦らして苛めてくる。
「鷹さぁ……ぁ、ぁ、ん」
 嫌だ嫌だ恥ずかしいと思っても、身体の方は悦んでしまう。ときをおかず高みへと連れていかれた。肉茎の奥からぐうっと快感がせり上がり、それが先端で弾ける。迅鷹の浴衣を汚したくなくて、絶頂を越えたときは必死になって自分の手で亀頭をつかんだ。
「あ、あ、どしよ、溢れちゃう、っ……から」
 捕えきれず雫はぽたぽたと相手の胸元に落ちた。泣きそうになりつつ俯いてそれを眺める。
「構うもんか。もっと出せ」
 そう言って、ぬちゃぬちゃと音を立てながら濡れた性器を扱かれた。
「あ、あ、また、俺……」
 達したばかりの茎はふたたびの刺激にひりつくように反応する。
 逃げをうった隼珠の手が迅鷹の急所をかすめた。硬く勃起しているようだったので、隼珠も奉仕しようと身をのりだしたら頭上からとめられた。
「触るんじゃねえ。おめえにゃ扱えん代物だ」
 犬を躾けるように言われて、隼珠は快楽の余韻の中で手をとめた。
「……へい」
 手を引っこめて、言われたことに従う。
 迅鷹はいつも隼珠の精を手や口で何度かしぼって、それで満足して寝てしまう。隼珠を泣かすだけ泣かせて、自分は見て愉しむだけなのだ。
 男同士がどうやって閨で想いを遂げあうのか。隼珠だってもう子供じゃないからそのやり方は知っている。けれど迅鷹はそれをしようとしない。
 そこに隼珠は、わずかな不安を感じてしまう。
 迅鷹は、隼珠とのことを一時の戯れにすぎないと捉えているのではないだろうか。ときがたてば、夫婦にもなれない同性同士、離れることもあり得ると思われているんじゃないか。
 だから最後の一線は越えようとしない。それが迅鷹の意思表示のような気がした。
 気持ちだけでしかつながれない。形に残るものなど何もない。隼珠は姐さんにもなれないし、子孫を残してやることも不可能だ。
 親分と居候。出入りがかけられれば、その後のことは全く予想がつかない。
 どちらかが命を落とせば、生き残った方はどうなるのか――。
 迅鷹の指先が、締めつけるように男の根に絡みつく。
「……ぁ」
 小さな声をあげながら、隼珠の意識は二度目の混沌へと飛ばされていった。



                   目次     前頁へ<  >次頁