彩風に、たかく翼ひろげて 42(R18)


「やっ……、た、たか、さっ……」
 そうされるともう、隼珠はただ悶えて苦しむしかない。硬くなったものが、下帯の中ではしたなく跳ねた。欅の太い幹にもたれかかりながら、男の唇に身を任せていると、手が腰に回される。帯をほどかれ、着物をしどけなく乱された。両足を大きく割られて、隼珠の持ちあがった股間があらわになった。
 下帯をじっとりと濡らす様子に、隼珠は恥ずかしさに居たたまれなくなった。
「……ごめんな、さ」
「なんで謝る」
「こ、こんな、いつも、俺、鷹さんに触られると、こんなふうに、なって……」
 我慢できなくて。ねだるように揺らしてしまって。だから迅鷹は仕方なく、手を施してくれるのだと思っていた。
「俺ばっかりが、いつも、世話かけて、しまってて」
 迅鷹は自分の身体などでは、きっと満足できる人じゃないのだろう。そう考えていた。迅鷹は、己の欲望をさらしたりしない。隼珠の精だけをいつも搾り取る。だから隼珠は、この行為が同情なのだと信じていたのだった。
「隼珠よ」
 迅鷹の手が、下帯の膨らんだ部分にあてられる。
「俺がお前のよがってるところを見て、正気でいられたとでも思ってるのか」
 ギュッと握られて、隼珠は快感に呻いた。
「あ、ああっ」
「俺がどれだけ我慢してきたか」
「は、は、あふっ」
 そのまま扱かれて、隼珠は内腿をわななかせた。両足は迅鷹の腰に阻まれてとじることができない。
「お前だけじゃねえ。俺も、欲しくてたまらなかったんだよ」
 竿の形をたどるように、上下に手を動かされて、隼珠は嫌々をするように首を振った。
「あ、あ、ああっ、そんな、こと、されたら、……も、もう……」
「けどよ、最後までしちまったらもう、後戻りはできなくなる。お前を手放すのが怖くなる。だから俺ぁ、絶対に、自分の欲だけはお前にぶつけねえように我慢を強いてたんだ」
「……鷹さんっ」
 隼珠が両手をのばして、迅鷹の首に縋る。迅鷹の腿の上にのるようにして、相手にしがみついた。
「や、や、やだっ」
 うわごとのように呻く。
「やだ。そんなのはいやだ。鷹さんが、俺のせいで我慢して苦しむのは、ぜったい、に、いやだっ」
 迅鷹の首に、自分の頬をこすりつけた。そうすると相手の髪や肌から、なじんだ匂いが立ちのぼる。迅鷹の匂い。隼珠の大好きな、澄んだ日なたの匂いが。それが今は濃く強くなっている。きっと喧嘩と情欲に興奮しているからだろう。だとしたら自分もまた同じように激しく欲望の気を発散させているはずだ。
 ――欲しい。この人のことが、全部。してほしい。望むことを、すべて。
「お願い……してっ、して、くだせぇ……っ」
 男の手に、自分の股間をなすりつける。迅鷹の手がとまり、代わりに肩がぐうッと持ちあがった。
「かわええことばっかり言いやがって」
 迅鷹の手が、隼珠の急所をきつくしめつける。絞るようにされて、隼珠は痛みと気持ちよさに、さらにものを硬くしてしまった。
 若木のようなしなやかな竿がピンと張って勃ちあがるのを、迅鷹は手先で確かめながら煽るようにまた蠢かせた。
「鷹さん……た、か、さっっ、あ、やっ、も、もう」
 達ってしまう。そんなことをされたら。
「あ、ど、どしよ、も、もう」
 震える腿に力をこめて、踏みとどまろうと我慢するけれど、限界はあっという間にやってきた。迅鷹の首筋にしがみついて、己の終わりをできる限り辛抱する。
 晒の上から先端を弄られて、布地の感触に小さな口がヒクヒクとわななく。こらえてもこらえても、孔からは透明な雫があふれてくる。下帯に覆われているせいで快感は少し鈍い。それがもどかしくて、隼珠は身をよじって突きあげる愉悦を逃がそうとした。
「ん……、んっ、た、たか、さ……」
 迅鷹の手が下帯の中に忍んでくる。大きな手で、屹立した茎もやわい嚢もいっしょくたに握られる。蟻の門渡りを中指で優しくなでながら、双つの珠をたなごころで転がし、もう一方の手で、裏筋をかるくつねるようにされた。きゅ、と薄い皮膚を引っ張られれば、隼珠は痺れるような甘い快楽に、どうしようもなく泣きそうになった。
 迅鷹が下帯をずらし、隼珠の急所をすべて外にさらす。片足をぐいと持ちあげられ、全て明らかにされた。
 隼珠のものは、もう限界を越えて、解放されたくてしょうがないというように震えていた。
「ちいせえな、お前のは」
 奥のとじられた場所に、指先が触れてくる。
「……あ」
「挿れたら壊れそうだ」
 つぷ、とそれが沈められた。
「……ふ、っ」
 息をはいて、やるせない感触に耐える。迅鷹は慎重に指を押しこんできた。
「……して、くだせ」
両手を相手の肩にのせて我儘を言う。
「壊れねえように、頑張って、ひろげる、から」
自ら腰を揺らして、指を食むように粘膜を蠢かせた。目をとじて、迅鷹の指の感覚を追えば、身体の奥からもっとと望む欲が生まれてくる。
「だから、鷹さんのが、ほし……っ」
 感情がたかぶりすぎて涙をこぼすと、迅鷹が唸る。
「くそっ」
 男の指が力を増す。ぐいっと侵入してきて、鉤のように曲げられると、中でぐりぐりとかき混ぜられた。
「あ、ああ、……うっ」
「こんな華奢な身体で……俺のモンがおさまるのか、ええ? 隼珠よ」
 顔を向けると、迅鷹がまた唇をあわせてくる。舌で口内を舐られて、音を立てて舌先を吸われて、そうしながら迅鷹は、隼珠の中で何かを探すように指を動かした。
「――あっ」
 ビクリと身体が魚のように跳ねる。奥で痛みに近い快感が迸った。
「せめて気だけはやる。何度でもな」
「あ、あ、ああっ、な、なに」
 迅鷹の肩に爪をたてて、それを散らそうとするけれど、無骨な指は構わずに、そこばかりを狙ってもんでくる。
「は、はっ。あ、ああっ……た、たか、さ」
 ピリピリとした感触が、愉悦を押しあげる。あっという間に制御不能に陥っていく。
「あ、や、どしよ、も、もう、俺――」
 双珠の奥からせり上がってくるものを堪えることができない。隼珠は足をひらいたまま、反り返った茎の先端から、自分の腹に薄い白濁を重吹かせた。
「ああっ――……は、はあっ……」
 触れられてもいないのに、達してしまった。
 先端からだらだらと雫があふれてくる。自分の身体が自分のものでなくなったみたいだった。迅鷹が俯いて、隼珠の放った雫を見おろす。月明りで、いつもより多い体液がゆっくりとたれていくのが分かった。
「精もでちまったか」
迅鷹は白い精を三本の指でたどった。すくうようにして指先を濡らし、それでまた奥の秘めた場所を暴きはじめる。今度は指を増やして、孔を緩めるように出し入れしだした。暗い森に、ぬかるみを叩くようなみだりがわしい音が響く。自分の身体がたてる音に、隼珠は居たたまれなさを感じた。
「……ん、んふぅっ」
 声をこらえようとすると、耳にかじりつかれる。歯でやわく刺激されて首筋にぞくぞくと寒気が走った。こんなやるせない感覚は経験がない。苦しくて死にそうだった。



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