彩風に、たかく翼ひろげて 43(R18)


「鷹さん……、も、もぅ、俺、また……」
 隼珠のものは硬さを取り戻し、ゆるく弧を描いて勃ちあがっている。濡れそぼり誘うように揺れている。隼珠の無心に、迅鷹が唸り声をあげた。
「まだ早いか。けど、もう、俺も待てん」
 迅鷹が指を抜き、自分の着物の裾をまくりあげて紺股引の紐をほどく。性急な手つきでそれをおろすと、きつく上向きに張った下帯があらわれた。隼珠が上気した目で見る前で、迅鷹は下帯を無造作にずらした。
 そこから硬く勃起した凶器が姿を見せる。隼珠のものよりも数段立派で力強く漲っていて、闇の中、大太刀のように勇猛にそそり立っている。わずかな月明りに、濡れた先端が刃先のように光を弾いた。
 隼珠が知る限り、こんなに大きなものは見たことがなかった。肩においた手が思わず震える。
 ――こんな、大きなものが。
 自分の内に入るのだろうか。
 隼珠の戸惑いを感じ取って、迅鷹の目つきが変わった。優しさと気遣いが消えて、猛々しさが生まれてくる。今までは欲しがるばかりだった隼珠がここにきて、急に怯んだことに烈火のような意気を見せる。それは狩をする猛禽の表情だった。狩猟本能が弱い生き物を見てしまうと襲いたくなるように、迅鷹は自身の武器をさらしたことで雄の欲に捕らわれたようだった。
 委縮した隼珠の瞳に、余計に煽られたかのように迅鷹は勇んで隼珠の足のつけ根をつかむと、両側に大きくひらいた。
「――ああっ」
 そのまま、自身の肉の刃を突き入れ後孔をこじあける。ぐぐッと押し進められると、隼珠の下半身は痛みと快楽に深くおののいた。
「あ、あ、あはっ――ああっ――」
 初めての感覚は、脳を沸騰させ、意識を遠くに飛ばしていく。全身が迅鷹のものだけに反応して、それ以外の世界が弾けて霧散した。
「あ、ああ、あ、鷹さんっ」
 凶器が身体の奥へ奥へと侵入してくる。敏感な粘膜をこすりあげる。
「く、う――ッ……」
 迅鷹も苦痛の呻きをあげた。しかしそれもすぐに、満足げなため息に変化する。
「――う、んぅ……、んっ」
 男の低い声が、官能的に耳に響く。自分だけじゃなくて相手も感じ入ってくれていることに、心の底から果てしない恋情がわきおこる。
「……鷹さん」
 隼珠は相手の首に縋って、名を呼んだ。そうしないと、どこか壊れておかしくなりそうだった。
「痛いか?」
 隼珠は首を振った。痛みはあったけれど、それ以上の喜びがあった。
「いい、いい……痛いのは、わからない、くらい、いいっ」
「そうか」 
「鷹さん、好き」
 あぐらをかいて座り直した迅鷹の腿の上に馬のりになり、肌を密着させて、自分から腰を落とすようにする。
「ああ、俺も好きだぜ、隼珠」
 迅鷹は隼珠の小ぶりの尻をつかんで、それに自身を打ちつけるようにしてきた。いきなり下からの突きあげを激しく開始する。痛みはすぐに吹き飛んで、くぐらせた門から奥まで痺れるような快感が襲ってきた。
「ああ、ああ、ぃ、ぃいッ」
 声を嗄らせて、未知の快楽にまみれていく。
「くそっ、可愛くてしょうがねえな」
 迅鷹のものが中で嵩を増した。隼珠の婀娜めいた声に呼応して、さらに凶暴にそれを抽挿させる。隼珠は朦朧となりながら迅鷹の動きに身を任せた。
 迅鷹が、「はッ」と息をはく。
「喰いちぎられそうだ、俺のほうが壊れる」
 迅鷹が眉間に皺をよせて苦しそうな表情をする。けれどそれは官能的で、見ているだけで隼珠はまた達きそうになってしまった。
「鷹さん、鷹さん……ああ、は、っ……」
 迅鷹が片手で隼珠の熱を扱いてくる。どうにもならない下肢のたかぶりに翻弄されながら、身をよじり、髪を振り乱し、隼珠は二度目の頂へと連れていかれた。
「あ……ああ、……ん、んっ」
 両足を痙攣するように震わせ、相手に抱きついたまま飛沫をとばす。限界まで広げられた粘膜も同時にうねりながら相手の凶器をしめあげた。
「――は、っ……くっ」
 迅鷹が唇をわななかす。端正な容姿が、一瞬だけいかがわしくゆがむ。痛みをこらえるような解放するようなその顔は隼珠が初めて見るもので、胸をつらぬかれる思いがした。
「鷹さ……」
 自分の奥深くで、精が弾ける。
「――ぁ、ぁ――……」
 身を大きくのけぞらせて、隼珠はそのすべてを受けとめた。
 迅鷹は抜かぬまま、自分の着物を引きよせて枯草の上に敷き、そこに隼珠を横たわらせた。
 グイと突き進むように、太い性器を押しつけてくる。
「まだ全然足りん」
「ああっ」
 隼珠は相手の首に手を回し両足を腰に巻きつけた。とまらない抜き差しに、粘膜は鬼灯(ほおずき)を潰すような卑猥な音をたて、暴かれた門は引きつり、摩擦の熱さに翻弄された。
 それでも想い人とひとつになれた嬉しさに、全身が喜びうち震える。
「……鷹さん」
「痛いのか?」
「気持ちいい……」
 迅鷹が隼珠の頬を両手で包んで、口を吸った。
「お前の身体が欲しくてたまらなかった」
「俺も、です」
 また気持ちが高揚して、涙がにじんでしまう。自分はこんなに脆かったのか。
「あなたのもんです。俺の身体は、ぜんぶ」
 迅鷹の激情に揺さぶられながらささやく。
「助けてもらったあの日から。あなただけのもんです」
 迅鷹が、たまらないというように隼珠の髪をかき乱し、深く口づけた。
「隼珠」
 打ちつけるたびに嵩を増す凶器に、胸までも貫かれる。 
「それは俺のほうだ」
 漆黒の長い髪が、隼珠の額で揺れた。
「あの日、お前が、俺を、助けたんだ」
 間近で見つめられ、そうして微笑まれる。流した涙が、相手の指先を濡らした。
「鷹さんしかいない。俺の人生にはもう」
「俺にも、お前しかいない」
 迅鷹が力いっぱい、隼珠を抱きしめる。隼珠も腕を回して応えた。激しい抽挿に、ふたりは溶けてひとつになっていくようだった。
「……離れたくない」
 言葉がこぼれる。それは隼珠のたったひとつの願いだった。
 迅鷹が愛おしくて仕方がないと言うように腕に力をこめる。
「ずっとつかまってろ」
 そう言って、激しく、けれど愛情深く、隼珠の中を蕩かしていく。
「……ああ。も、う……」
 また頂きまで連れていかれる。二度も達したのに、際限なく身体は迅鷹を欲しがっている。
「あ、ああっ、――ああ、鷹さん……」
 隼珠が階を越えるのと同時に、迅鷹も身を奮わせた。ふたり一緒に命の源を放ち、解放されて心をひとつにする。
「俺も離さねえ」
 低くかすれた声が、重なった肌から響いてくる。
 八年前、死の淵にいた自分を救おうとした声の主。
 隼珠はその声に、漆黒の闇から引きあげられていく心地がした。



                   目次     前頁へ<  >次頁