呪いの人形をこわしたら義兄が赤ちゃんになってしまいました。頑張って子育てします。 10(R18)


「え? どうして」
 なぜこの状況で? 結太は目を瞬かせた。
 そして、いつもは理知的で冷淡な相手が、間近で感情をあらわにしているのにひどく戸惑った。胸の奥からザワザワと悪寒のような震えが、同時に、腹の下から熱くたぎる血潮のようなものがわいてくる。
 結太は股間にむず痒さを感じて、折り曲げた足をモゾモゾさせた。それに宗輔が訝しげになる。さすがに結太もこの状況には羞恥を覚えた。
「何だ? どうした」
「い、いぇ」
 視線をウロウロとさまよわせると、こちらを睨む宗輔と目があう。すると、相手も結太の潤んだ瞳を見て表情を変えた。何というか、予想外のものを見てしまったというように目を見ひらく。
 それから視線を結太の下肢に落とした。そこでは小さな紙オムツでも隠しきれないものがふっくらと盛りあがっている。
「……見ないで」
 ください、と言おうとしたところに、宗輔の片手が動いた。
 むきだしの外腿をそっとたどるように大きな手のひらがおかれる。
「――あ」
 思わずでてしまった声に、ひくりと足が痙攣した。宗輔の手が触れたところから、ヘンな感覚が這いあがってくる。それは結太の息子をまた成長させた。
「……触らないで。でちゃうかもです」
 何とも情けない声がもれたが、相手の喉仏がグッと上下した。
「……だせよ」
 それは聞いたこともない、低い凄味のある声だった。怒っているのではない。むしろ興味がわいてきたというか、欲望を刺激されたというか、そんな奇妙に命令調の声音だった。
 結太は宗輔の不可解な変化に身を震わせた。その頼りなげな動作に誘発されたかのように、宗輔の手が外腿から内腿へとすべりこむ。
「……あ、やだ」
 拒否は意思に反してか弱いものだった。宗輔の手が、膨らんだ場所を包むように掴む。キュッと握られて、結太は小さな喘ぎをもらした。
「……あッ。ん、や、宗輔、さっ」
 宗輔は結太の声を聞いていなかった。まるで何かに操られでもしているかのように、心ここにあらずの様子で結太の硬くなった分身をぐにぐにともんできた。
「だめ、でちゃう、そんなことしたら、で、ちゃいます」
 こんなこと、人にされたのは初めてだ。それも、兄である宗輔にだなんて。背徳感と快感で頭の中がグルグルする。
「だせ。俺の前で」
「やだやだ……」
「他の奴の前で、だしたことあるのか」
「な、な、ないです」
「だったら、俺に一番のりに見せろ」
 何でですか、という声が、喘ぎに変わる。宗輔の手は、こういった行為に慣れているようには思えなかった。どちらかというと乱暴で、あせっているかのような動かし方だった。紙にくるまれた状態で扱かれるのも初めてで、鈴口にあたるときつい刺激がくる。
「ああ、も、や。やだ、いっちゃう……」
「いけよ」
「ふっ、……うう、ひ、ひど、い……っ」
 涙もでそうだった。けれど、宗輔はそんな結太の表情も余すところなく見ておこうとするかのように、真剣な目を向けてくる。宗輔の瞳の中にある感情の正体がわからない。だが男らしい眼差しが、自分の乱れた姿に注がれていることに、背筋が震えた。
「あ、……あ、も、もうっ。や……い、んっ、……いっちゃい、ます……っ」
 混乱したまま、快感に際を越えさせられる。足を大きくわななかせて、泣きべその顔になって、結太はびくびくっと吐精した。
「あ、ああッ……あ、ぅ、……っ」
 全身を震わせ、甘い声をあげてしまう。宗輔の大きな手は、結太が達するまで、そして達した後もなかなか離れていかなかった。
「やだ……。もう、宗輔さん……何でっ」
 とがめるように睨みあげると、涙が一筋まなじりから落ちていく。
 それでやっと宗輔は我に返ったように、呆然と結太を見おろしてきた。


◇◇◇


 宗輔は自分が何をやったのか信じられないような顔で、少しの間、ポケッとしていたが、急に正気に戻ると、泣きだした結太にオロオロし始めた。
「……おい、泣くな。……ていうか」
 周囲に目を泳がせたり、焦って結太の肩をなでたりしてくる。
「……悪かった。ていうか……俺」
 感情が言葉にならないらしく、意味不明な呟きをもらした。
「ああ、そうだ、でたんだから拭かなきゃな」
 と言って、うわの空でおしりふきを手にする。
「さあ脱げ」
「いやですうっ」
 おしりふきを引ったくって、寝室へと駆けていった。バタンと扉をしめて、まだドキドキしている心臓を押さえる。そして、宗輔のしたことをひどいと思いつつ、自分も彼に無神経なことをしていたのだと今更ながら気がついて、ひどく落ちこんだ。
「……小さい宗輔さんの世話をちゃんとしてること、喜んでくれると思ってたのに。俺の勘違いだったんだな」
 何よりことの発端が自分のせいなのだから、世話をしてあたり前だったのだけれど。
 自分で自分の後始末をして、着がえてから部屋をでる。鈍感だったことを詫びなければと思ったが、宗輔は家からいなくなっていた。
「……あれ」
 どこかにでかけてしまったらしい。
「どこいっちゃったんだろ」
 黙ってでていかれたことに、寂しさを感じてしまう。結太は罪悪感を拭うために、宗輔の好きなメニューで昼食を作ることにした。ナポリタンスパゲティにハンバーグ。彼は割と子供っぽい料理が好きだ。
 しかし宗輔が戻ってきたのは夕刻だった。きっと顔をあわせるのが気まずくて、どこかで時間を潰していたのだろう。けれど変身する時間が近づいてきたので仕方なく戻ってきたようだ。玄関がひらく音がして、それから居間に入ってきた彼は、少し目許を赤らめていた。
「結太」
「はい」
 結太がエプロンで手を拭きながら台所からでる。
 宗輔の前にいくと、彼はポケットから封筒をだしてきた。ATМ用現金封筒だ。それを無造作に手渡してくる。
 封のされていない袋の中には、現金が十万円入っていた。
「これは……」
 これでさっきのことは、なしにしろとでも言うのだろうか。もしかして慰謝料か。驚く結太に、宗輔は顎をしゃくった。
「お前、子供化した俺に、たくさん金使ってるだろ。請求してこないから、俺もそこまで気が回ってなかった。それ、使え」
 そうして、きまり悪げにぼそっと言った。
「さっきは悪かった。弁護士としてあるまじき行為だった。訴えられても仕方がない。反省してる」
「……いえ」
 結太はフルフルと首を振った。
「俺こそ、大人の宗輔さんのことも、きちんと考えなきゃいけないのに、子供中心になってしまってました。すいません」
 宗輔は俯いた。心から反省しているようで、らしくなくしおれた様子だった。
「いいんだよ、俺のことは」
 そう言うと、壁にかかった時計に目をやった。
「時間だな」
 結太も時計を見あげる。午後五時四十八分。そして目を宗輔に戻すと、薄緑の霧がふわりと発生し、大人の宗輔が消失した。
 霧が消えたとき、そこには三歳になった宗輔がいた。びっくりした顔をしている。
「宗輔くん」
 笑顔で話しかけると、チビ宗輔は不安そうな表情で、結太を見あげてきた。
「……ママは?」
 可愛らしい声でたずねられる。結太は小さな頭をなでであげた。
「ママはね、明日になったら会えるよ。今夜は、僕が宗輔くんと一緒にすごすようにって、ママに頼まれているんだよ」
 これは、毎回、子供になった宗輔に最初にかける言葉だった。チビ宗輔は必ず、開口一番、「ママはどこ?」と不安げにきいてくる。それはそうだろう。このくらいの年齢の子が母親と離れて夜をすごすのは心許ないに違いない。だから結太は、精一杯、チビ宗輔が寂しがらないように心を砕くのだった。
「ご飯食べよっか。お腹すいてない? 宗輔くんの好きなもの、いっぱい作ってあるよ」
 落ち着かない様子の彼を抱っこして、背中をポンポンと叩いてやる。ご飯を食べさせて、デザートをあげて。玩具で遊んでお風呂にも入って。
 それでやっと、宗輔は結太に懐いて、一緒のベッドで寝てくれるのだった。



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