呪いの人形をこわしたら義兄が赤ちゃんになってしまいました。頑張って子育てします。 21(R18)


◇◇◇


 解呪が終わると、結太と宗輔は大泉に礼を伝えて電話を切った。
 その後、急いでタクシーで近所にある病院の夜間救急へと向かう。
 宗輔の腕は五センチほど切れていた。傷を縫合して包帯をしてもらい、痛みどめと抗生物質を受け取って治療を終える。結太のほうは、病院に着くころにはすっかり元気な状態に戻っていた。まるで夢だったかのように、身体の不調は消えていた。
 呪いを無事に解くことができたのは、大泉が偶然にも電話をくれたおかげだ。もしも、連絡がなかったら、結太は今ごろ、原因のわからない高熱に苦しめられて命を落としていたかもしれない。『急に思い立ってね、電話をしなければと思ったんだ』と言った大泉の言葉に、結太はもしかして、天国の父が息子の異変を知って導いてくれたのかもしれないと感じた。
 しかし診察の必要がなかったことには安心したけれど、結太は宗輔の処置が終わるまで、ずっと落ちこんでいた。
 宗輔が自分を助けるために自ら腕を刺した。そのことがひどくショックだったからだ。
「結太」
 うす暗い夜間出入口前のベンチに腰かけて、泣きそうになっていると、会計を終えた宗輔がやってくる。結太が立ちあがると、包帯を巻いた左手を守るようにしながら近よってきた。
「……ごめんなさい。宗輔さん、お、俺の、せいで……」
 真っ白な包帯を見た途端、言葉がつまってしゃくりあげてしまう。そんな結太を宗輔は片腕を回して抱きよせた。
「気にするな。大したことはなかったから」
「で、でも……」
「結太」
 誰もいない廊下で、結太を抱きしめる。
「これくらいの傷、どうってことはない。それよりもお前が精霊に連れていかれなくてよかったよ。呪いなんかでお前を失うことになったら、どうしていいかわからなかった」
「宗輔さん」
 宗輔が結太の背中に手をあてて、なだめるようにさすってきた。
「お前は百日間、俺を赤ん坊から育て直してくれた。ガキのころから抱えていた鬱屈も寂しさも、全部、ひとつずつ、毎日丁寧に理解していってくれた。おかげで俺は、自分の本心を知ることができたし、以前よりずっと幸せになることができた。お前は俺にとって、大切な、何より大事なパートナーなんだ。だから、俺の手で助けてやることができてよかったんだよ」
 優しい言葉に、涙をこらえることができなくて、鼻をグスグス鳴らす結太に、宗輔はそっと顔を近づけてきた。
「泣くなよ。可愛い顔がぐちゃぐちゃだ」
 盗むようにして、宗輔がちゅっと口づけてくる。結太はビックリして目を瞬かせた。
「そ、宗輔さん」
 驚いて周囲に目を泳がせる。誰もいないとはいえ、大胆な行為だった。
 結太のうろたえぶりに、宗輔がいささか悪い顔で微笑む。宗輔がいつも通りの様子を見せてくれたことに、結太は目を瞠り、それから緊張がほどけるように気持ちが落ち着いていった。
「さあ、もう家に帰ろう。呪いの解けた祝いをまだしていないだろ」
「はい」
「腹へった。お前の作ってくれた海老グラタンが早く食べたい」
「はい」
 そうして、自宅へと戻り、ふたりでやっと魔術から解放された乾杯をしたのだった。


◇◇◇


「これでついに、あの呪いから解放されたな」
 宗輔が、結太の頬を両手ではさみながら、しみじみ嬉しそうに呟く。
「はい。百日間、宗輔さんにはご迷惑をおかけしました。無事に終えられて本当によかったです」
 ふたりは結太のベッドの上で向きあって座っていた。
 時刻は午後十一時すぎ。宗輔はもう、変身していなかった。
「この三か月は振り回されっぱなしだったけど、可愛くて世話好きなヨメを手に入れることができたのだから、結果的には、あの木像には感謝だな」
「ヨメですか」
「家事育児何でもできる最高のヨメだ」
「ほめられてるはずなのに何か複雑です」
「夜の勤めも最高だし」
 そうして腰に手を回してくる。
「……ぁ、宗輔さん、傷に障りますから」
 結太はくすぐったさに身をよじった。
「痛みどめを飲んでいるから大丈夫だ。それよりも、さっきからお前に触りたくて、そっちのほうがずっとつらい」
「そ、そんな」
 宗輔がパジャマの下に手を差し入れて、肌をやわやわともんでくる。結太は肉づきが薄いため、皮膚の下はすぐに骨だ。そんな丸みのない身体なのに、宗輔は楽しくてしょうがないというように、いつもあちこちなでで、もんで触れたがる。
「もう熱くなってきてる」
 大きな手のひらを胸まであげて、小さな粒を探りあてると、それをキュッとつまんだ。
「――あっ」
 結太はビクリと跳ねて宗輔にしがみついた。宗輔が笑いながら結太の髪に口づける。
「反応がいちいち可愛いんだよ。結太は」
「……は、ぁ。そ……それは、宗輔さんの手が、意地悪いから」
「そうか? ほんのちょっと動かしてるだけだぞ?」
「あ、……んっ、う、うそば、っかり」
 宗輔の手のひらは大きく円を描くようにして、結太の胸や脇をやさしく這い回った。触れられた場所から皮膚がふつふつと粟立っていく。
「あ、も、やだやだ」
 結太は背を丸めて、全身をヒクつかせた。自然と腰が持ちあがり揺れてしまう。ここ最近、しっかり教えこまれてきた快楽のせいで、身体が勝手に反応してしまうのだ。下着の中で育ち始めたモノが、早く早く触ってとばかりに自己主張してくる。
 両腿を内側によせてもじもじさせると、宗輔が口角をあげてきた。
「結太、口あけて」
「ん、……は、ぃ」
 言われた通りに口をあけると、深く口づけられる。舌先を力強い動きで押したりなでたりされて、全身をそうされているかのように身体中がゾクゾクしてきた。
「濡れてる」
 いつの間にか、宗輔の手が下着の中に入りこんでいた。そうして、結太の性器の先端に指先を添わせてきた。
「……あ、んっ」
 痺れるような快感が、ペニスから奥の狭間まで駆け抜けていく。小孔の周囲を指先でつままれ、よじるようにされると、潰された小さな孔から泣くように雫がにじみでた。
「はっ、やっ、や、それ……っ」
「いいだろ?」
「あ、ん、は……い、……いぃ」
 宗輔は結太のズボンと下着を一緒に尻から剥くと、片手でペニスを扱き、もう一方の手で丸みのある丘の部分をもんできた。
「あ、……や、ん、んっ」
「もっと乱れさせたくなってきた」
「……え?」
 言うと、宗輔は結太の肩を掴んで、仰向けに押し倒した。ベッドボードの近くにおいてあったボトルを手に取る。それは宗輔が結太のために配合したローションだった。研究熱心な宗輔は色々な原料で潤滑剤作りを試し、結太に最適な一本を作りだそうと日々努力している。
 今日のそれは、蜂蜜の甘い匂いがした。新作らしい。
「限界まで、いい気持ちにさせてやる」
「へ」
「ずっと我慢してきたんだ。今日こそはお前とつながりたい」
 宗輔が黄金色の手作りローションを手のひらに垂らした。
「さあ、はいているものを脱いで、足を持ちあげろ。自分でするんだ」
「……あ。ふぁ、い」
 命令されて、結太はおずおずとズボンと下着を脱いだ。そうしてから足をひらく。すると、宗輔がダメダメというように首を横に振った。



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