ゆるキャラ系 童貞男子の喰われ方 23(R18)
「上城の奴、今夜、俺を呼びだしてるんだ。きっちり話をつけたいから、店がはけたあとのザイオンに来てくれって言いやがってさ。多分、あんたのことなんだろう。行くつもりだったがやめることにするわ。その代わり、ここであんたをヤってやる。そうすりゃあいつの悔しがる顔が見れるからな」
確かに、と男のひとりが笑いながら陽向の背中に片足をのりあげる。背骨を膝でごりっと擦られて、痛みに悲鳴が出た。
「……いっ」
「脱がせろ」
「や、やめっ……」
ベルトに手がかかる。恐ろしくなって暴れると、髪を掴まれ頬を叩かれた。顔をベッドに押しつけられて、息ができなくなる。腕をひねりあげられて、痛くて呻き声がもれた。
「……やっ」
いくつもの手がのびてきて、身体を拘束され、ズボンが剥ぎ取られそうになる。一体、なにをされるのかと考えるだけで怖気がきた。
怒らせても、ただ殴られる位だろうと想像していた陽向は、異様な展開に戦慄した。
「誰からヤる?」
野卑た笑いが背後から聞こえる。氷漬けされたように全身が震えだした。
「俺からヤらせろ。次がおまえだ」
「おっけぃ」
「ヤり終わったら、服、全部ひん剥いて、上城の店のまえに放りだしてやろうぜ」
「それいいな」
男らの笑い声が耳の奥で反響する。畠山が手をのばして、服の上から陽向の股間を握ってきた。怖がって縮こまる場所を、手のひらで乱暴に揉みあげる。
「……っ、あ、……やっ」
拒否の言葉が食いしばった歯の間からもれた。けれどそれは男らを煽っただけのようだった。
畠山が陽向の耳元で、ねっとりと絡みつくように卑猥な文句を投げてくる。
「一晩中、ここで四人で可愛がってやるよ。酒もクスリもたっぷりあるしな。動画も取って素人モノで配信してやる。上城がそれを見てどんな顔するか、楽しみだな」
うす笑いとともに、陽向のものを無造作にいじってきた。嫌悪感で一杯になるが、逃げだす手立てがない。
――ああ、もうダメか。
下着に手をかけられ、陽向は観念した。ずりさげられて、皮膚が粟立つ。誰の手かわからないものが、内腿に這わされる――。
あきらめかけたところに、背後から鈍い音が響いてきた。
ドアが蹴られた音だった。それから人がもみあうような声。
「やめて壊さないでっ」
「ここにいるんだろうが」
再度、ドアが大きく蹴られる。
蝶番が外れて、木枠が弾けて飛んでいった。
「おいなにやってんだよおまえらっ」
聞いたことのある声が、頭上から降ってきた。首をひねって無理な体勢から顔をあげれば、戸口に立つ影に、男たちも振り返った。
部屋の入り口に、バーテンダー姿の上城が立っていた。
「……か、上城、さ……」
押さえつけられ、服を脱がされている陽向を見て表情を凍らせる。一歩踏みだし、拳を胸のあたりで作った。
「そいつを離せ」
ひとりずつ殴り倒しそうな勢いに、男のひとりが大ぶりのナイフを取りだし、陽向の顔にかざした。
「おおっと、手ぇだすなよ」
威嚇するように、陽向の頬に刃の先端を当てて見せる。鋼が鈍く光るのを見て、上城が怒りに顔を歪めた。
畠山が陽向から離れ、上城のまえに立ちふさがる。
「こいつの顔に傷つけられたくなかったら、大人しくしてろ」
薄ら笑いを浮かべ、顎を突きだし上城を見あげた。上城は男を睨みつけたが、押さえ込まれている陽向を確認すると、握りしめた拳を震わせながら脇にだらりと下ろした。
畠山が勝ち誇った顔つきになる。けれど、上城の反抗的な眼差しに、突然キレたように叫んだ。
「なんだよっ。てめえはいっつもいっつも、生意気なツラしやがって」
言うなり、上城の顔を拳骨で殴りつけた。
勢いあまって、上城は戸口まで飛ばされた。大きな音を立てて壁にぶつかり、そのまま頽れてしまう。
「か、上城さんっ」
陽向はナイフがあることも忘れて、肩を揺すって起きあがろうとした。三人がかりでねじ伏されていたので、びくともしなかったが、上城を助けたい一心で手足をバタつかせた。
「静かにしてろ」
髪を掴まれ、頬に張り手をされる。
「……いっ」
動きを封じられて、下着が引っ張られた。
「礎、おまえはそこで見物してな」
腰のあたりから素肌がさらされていくのがわかって怖気立つ。
陽向の足にひとりが馬のりになり、あとのふたりが自分のベルトに手をかけた。
――嫌だ。
上城のまえで、こんな奴らに犯されたくない。
絶対にイヤだ――。
そう思ったとたん、カッと怒りで頭が白くなった。
身体の芯が、急にわき立つように熱くなる。
思い切り腕に力を込めて広げれば、ビリッと上着の破れる音がした。不意に手がかるくなった感じがして、上半身が自由になる。
そのとき脳裏をよぎったのは、上城のスパーリング姿だった。ジムで見たときの、あの雄姿が自分の手先にのり移る。無意識のうちに、目のまえのナイフを持った男に、恐怖も感じず拳をあげていた。顔の下から、自分でも信じられない素早さで一撃を送りだす。
「――がっ」
悲鳴があがり、ナイフが床に落ちた。男らの注意が一瞬、上城から離れる。それを見て、上城が鬼のように形相を変えた。
獣のように唸ると、這いつくばっていた床から素早く跳ね飛んで、畠山に下顎から拳を繰りだす。
あっという間の出来事で、気づいたら畠山はふらつきながら床に倒れていた。
「っ……のおおっ」
なにを言っているのかわからない怒声が、残りの男らから発せられたと思った刹那、部屋の中は乱闘の音にまみれた。
陽向も自分を押さえ込んでいた男を闇雲に殴り返した。脳内からドーパミンが噴出して、痛さも怖さも感じない。ただ、上城と一緒に、こいつらを倒して早く逃げなきゃという、それしか頭になかった。
ちらと横を見れば、起きあがった畠山に、上城が刃物のようなパンチを見舞っていた。手の動きは早くて捕らえられない。殴られた畠山は、弾かれて後ろに飛ばされた。陽向もはいていたものをずりあげながら上城と共に応戦する。暗くて狭い空間で、もつれあうようになりながら喧嘩をした。
さして時間もかからぬうちに、四人は叩きのめされ床に重なるようにして転がった。
上城が息を切らした陽向の腕を掴むと、自分の背後へと匿う。
「畠山さん」
上城の息もあがっていた。
床にうつ伏せて倒れている畠山に、睥睨しながら静かな声で言い放つ。
「いい加減、こういうことはやめたらどうですか」
畠山が、重たげに頭を引きあげた。噛みしめた口元には血が滲んでいる。
「堕ちるに任せて自分を甘やかしてたら、いつまでたっても這いあがることはできませんよ」
「……っ」
その言葉に、悔しそうに拳を握りしめた。
「ナツキが、この街を出るときに、俺に言ってました」
上城が淡々と諭す。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう、って」
畠山が「うう……」と唸りながら、がっくりとうなだれた。力尽きたように動かなくなる。上城は部屋の中を見渡して、男らにも低い声で忠告した。
「あんたらも、今度、この界隈で見かけたらすぐに警察呼ぶからな」
乱れた服で立ち尽くす陽向に目をやってから、怒りを込めて念を押す。
「それから、この人に手をだしたら、警察が来るまえに顎を砕いてやるから。覚えとけよ」
足元で、男らが返事の代わりに呻吟した。
「出よう」
陽向をかばうようにして、部屋の外へと連れだす。廊下にいたマスターが青い顔で上城につめよってきた。
「警察は呼ばないで。お願いだから」
上城は頷いただけだった。
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