ゆるキャラ系 童貞男子の喰われ方 27(R18)


 上城はネクタイを手早く抜いて、ベストとワイシャツを脱ぎ素肌をさらした。スラックスのベルトを外すその姿を、陽向は蕩けた眼差しで見つめた。
 筋肉質の身体は、隆々というわけではなくて、むしろ全体的に細身だ。しかし無駄の一切ないシルエットは努力して作られたものだということがよくわかる。暗い灯のもと、シャープな陰影が際立っていた。
 ボクサーパンツをさげると、中から勃起した分身が姿を現す。初めて見る、形を成した相手の欲望だった。陽向は思わずそれに見入ってしまった。先程から直立していた自分のものが、上城の凶器のような男の象徴に呼応する。血の巡りが早くなり、脈動がこめかみから下腹まで直下して、欲しいと訴えかけてきた。
 上城が、瞳だけをあげてきた。挑むような強さと、同時に痛めつける相手への罪の意識を宿らせて。眉根をよせたその顔は、今まで見たことのないものだった。
 陽向は頭のてっぺんから足の先まで、快感の電流が駆け抜けるのを感じた。そうして相手と対峙して、自分はただベッドの中で男でなくなるわけではないのだと悟った。
 相手が欲しいと思うのと同じように、こっちだって欲しいのだ。愛情と欲望は与えて奪われるだけじゃない。自分だって同じように望んでいいのだ。受け入れるだけにしたって、やられっぱなしでなければいい。
「……は」
 息を吐いて力を抜きながら、陽向は手をのばして、上城のものを片手で掴んだ。相手がぎょっとした顔をする。
「上城さんの、これ、欲しい」
「……」
「だから、俺ん中で、俺の、好きにさせて」
 上擦った声で訴えれば、上城は、一瞬なにを言われたのかわからないというような表情をした。そうしてから、口元を歪めるようにして笑った。
「……おまえは、ホントに」
 それ以上の言葉は途切れた。あとは行為で示してくれと言うように、下半身をよせてくる。陽向が上城の分身から手を離すと、内腿を手でぐっと押さえられて足を左右に広げられた。腰が浮きあがり、ひらいた足の奥に侵入してくる硬さを感じる。
 予期はしていたけれど、想像をはるかに上回る衝撃的な感覚だった。痛くはないが、こじあけられるような奇妙な触感で、そんなところを擦られたら、きっとなにも考えられなくなって、頭がおかしくなるだろうという予感に襲われた。それと共に、触れあう場所からぞわぞわと悪寒が這いあがってくる。
「陽向……」
 上城が、陽向の首筋に前髪を擦りつけながら囁いてきた。
「つかまって、……力抜け」
 辛そうに頼まれて、陽向は素直に首に両手を巻きつけるようにした。
「――ああ」
 陽向の首元に顔を埋めた上城が、思わずといったように小さく呻く。その甘い喘ぎに、陽向も心の中から溶かされた。
「……きついな……中……、まるで歯、立てて喰われてるみたいだ」
「上城さん……」
 回した腕に力をこめる。上城が呼びかけに応えて唇をあわせてきた。
「礎だよ」
「……え」
「礎って、呼んでくれよ」
 お互い、吐息も舌先も熱を持ったかのように熱い。絡めあって、溶かしあっているうちに、上城のものがさらに陽向の中に入りこんできた。敏感な粘膜に重ねて与えられる刺激が、全身を震わせる。
「……礎さん」
 忘我の快楽に飲みこまれていくのが怖くなり、助けを求めるように相手に縋った。上城の滑らかな筋肉に指先が喰いこむ。
 強い弾力のある、鍛えられた拳闘士の肌だった。
「陽向」
 上城がぐっとまえのめりになり、身体を押し進めてくる。挿入の圧迫感がきて、上城が自分の中にいるということを切実に感じた。
 相手も痛みをこらえるかのような顔をして、もう我慢できないというように、腰を押しつけてきた。
「ああ……、すげ……。全部、喰われた」
「礎さんの、……大き……すぎ……きつ……」
「んん。おまえのせいだよ」
 下肢がぴったりと密着したまま、陽向は上城の腕の下で揺さぶられた。
 上城が頭上にあるベッドのスチールパイプを片手で掴む。それを引っ張るようにして、さらに力強く動き始めた。けれどゆっくり、緩慢な動作を保っている。急ぎたくてしょうがないけれど、自分を抑えて陽向がなれるのを待っている、そんな焦れた様子だった。
 端正な面立ちが、苦痛を伴う快感に歪められ、俯いて眉をよせている。その表情も魅惑的だった。
「礎さん……いいって」
 頬と頬が触れあう距離まで近づいて、話しかける。上城がなんだというように陽向を見てきた。
「俺のこと、好きにして、いいよ……。俺もしたいようにするから」
 我慢する必要なんかないから、と唇に自分から触れる。
「……おまえ」
 上城が顔をしかめた。
「そんなこと言って」
 頭上で上城がスチールパイプを握りしめたのがわかった。ぎゅっという音と共に、二の腕が硬く盛りあがる。怒ったようにきつく唇をあわせられた。
「こっちはゆっくりやろうと思ってんのに。とまらなくなるだろが」
「……大丈夫」
 陽向は無意識のうちに目をとじていた。視界がなくなると同時に知覚が鋭敏になっていく。下肢に意識が降りていき、やがて擦りあげられる負荷がやってきた。
 経験したことのない侵される快楽が、そこから生じてくる。陽向は受けとめるだけじゃなくて、相手にも感じて欲しくて、動きをあわせてやった。
 上城は雄の本能で攻めてくる。受けるこちらは自分が何者になっていくのかわからなくなるような感覚に引き裂かれる。それでも、自分の上にのっている男が激しく突きあげてくるたびに、心の奥底に相手を受け入れる器ができあがっていく気がした。
 ――ああ、俺は、この人が好きなんだ。
 だからこんな風に変化していくんだ。今まで知らなかった自分の姿が明らかになっていくようだった。上城じゃなきゃ、こんな気持ちにはならなかった。他の誰でもない。この人だから、こうなった。
「礎さ……礎さん……」
 両手を背中に回して、何度も相手の名前を繰り返す。そのたびにキスで応えられる。陽向のものが再び熱を持ち、上城の下腹に撫でられ揺すられて、また頂まで追いあげられた。
「も、……も、もう、俺、ああ、また……」
「陽向」
「だめ、もう、ああ――」
 喉を反らして、切羽つまった声をあげた。上城がそれに煽られ、さらに激しく挿し入ってくる。奥を抉られるたび、やるせない快感に全身が泣かされた。
「おかしくなりそう」
 それに答えるように、苦しげな囁きがもらされる。
「……俺も、おかしくなる」
 上城が耳元で吐息と共に喘いだ。もうどうしようもない、というように振り切れたような抽挿に変わっていく。ベッドが軋んで、マットレスが深く沈みスプリングが悲鳴をあげた。
「ぁ、あ、あ――」
 引き摺られるようにして、高みまで昇りつめていく。頂上まで駆けあがり、浮遊感と共に一気に放りだされた。抱きあったまま知らない場所へと飲みこまれる。
「――っ……」
 陽向が射精したのと同時に、相手も陽向の奥で終わりを遂げた。
 低く獣のように唸って、身を預けてくる。乱れた前髪がうなじに埋もれた。よりかかったまま荒く呼吸する相手を受けとめながら、陽向も大きく息を吸いこむ。
 身体中、関節が震えるほど疲れ切っていたけれど、心は満たされていた。
「陽向」
 掠れた声が耳に落ちてくる。
「……好き。……すげー……好きだよ」
 低く響く声音に、胸のうちから熱くあふれてくるものがある。
 俺も、という返事は夢の中で囁いているような気がした。



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