呪いの人形をこわしたら義兄が赤ちゃんになってしまいました。頑張って子育てします。 最終話

◇◇◇


 翌朝、日の光が注ぐ寝室で、結太はとろとろと目を覚ました。
 カーテンはあけ放たれているらしく、部屋の中は明るかった。
 ベッド脇のチェストの上に、きれいに血を拭われた木像がおいてある。朝日を受けて、像はまた何の変哲もない民芸品に戻ったような様子を見せていた。
 昨夜、ふたりはあの後、木像を前にして術のかけ直しを行った。大泉によれば、それをしないと再び発動した霊力がさまよって、どこかで悪さをしてしまうからだそうだ。
 『何を願いましょうか』とたずねた結太に、宗輔は微笑んで『願いはひとつだけだろ』と言った。
 そうして、声をそろえて『これからもずっと、ふたり一緒にいられますように』と願かけをしたのだった。
 横を見れば、宗輔が肘枕をして結太の目覚めを見守っている。どうやら先に起きていたらしい。
「……あ、宗輔さん」
 瞬きしつつ、「おはようございます」と朝の挨拶をする。宗輔はひどく嬉しそうな顔で、結太に挨拶を返してきた。
「おはよう。いい朝だな」
 その満面の笑みは、恋人と一夜をすごした甘々なものとは少し違い、何だか一癖ありそうな怪しげな笑顔だった。
「……」
 結太は不思議に思いつつ、横向きに寝返ろうとして、ふと下半身に違和感を覚えた。
「ん?」
 股の間が、シャカシャカしている。
「え?」
 下着とは違う、乾いたかさばる感触に、上がけをめくって自分の下半身を調べた。
「え? ぇは?」
 目を剥いて股間を見つめる。そこにはなぜか破れかけの紙オムツがあった。
「ええ? こ、これ。な、何ですか?」
 驚く結太に、宗輔はニヤニヤと笑ってみせた。
「お前、昨日の夜、あの後どうなったか記憶はあるか?」
「……ええ? まさか。……ないですけど。……え? 冗談、ですよね?」
「昨夜、術のかけなおしをしただろ。あれで、百日間の魂の浄化が、今度こそお前のほうに移ったらしいな」
「嘘」
「嘘かどうかは、動画を見ればわかる。ちゃんと証拠に撮ってあるぞ」
 宗輔が枕元においてあったスマホを手にする。
 電源を入れると、赤ん坊のか弱い泣き声が聞こえてきた。
「これお前」
「……まじで」
「今日から百日間、俺がお前を育てることになりそうだな。俺もついに育メンデビューか」
 悪い笑顔になって、結太を見てくる。
「……」
 せっかく呪いが解けて、平穏な毎日が戻ってきたと喜んでいたのに。またこれから百日間、振り回されなければならないのか。
 結太はかるい目眩を覚えた。
 呆然としていると、手を引かれて、広い胸の中に取りこまれる。
「ちゃんと扱い方を教えておけよ。アレの取りかえ方も、しっかりな」
 ものすごく楽しみな顔でささやかれた。
 結太の頭の中が、これから仕事はどうなるのか、経験のない宗輔が果たしてまともに育児ができるのかと、グルグルあれこれ混乱する。
 そんな魂が抜けたようになっている結太に、けれど、宗輔は嬉しそうに、明るいキスをしてきたのだった。



                             ☆~おわり~☆






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