エンジェルを抱きしめる 20(R18)
「琳さあ」
「うん」
「もしかして、初めて?」
うっ、と答えに詰まった。いきなり核心を突かれて、返す言葉を失ってしまう。
けれど敲惺は別にそれを揶揄するわけでもなく、優しげな眼差しを向けてきているだけだった。
「……そっちはどうなんだよ?」
反対に、琳は少し拗ねた口調で問いただした。
「――悪い、俺、初めてじゃない」
それでさらに拗ねた顔になってしまった。なんだかフェアじゃない。それは仕方のないことだったけれども。
琳が自分の経験のなさに落ち込むと、「琳」といつものように柔らかな声で呼ばれた。
「琳はさ、俺と、どうしたい?」
少しだけ前屈みになって、敲惺は身をよせてきた。
「……どうって」
そんな急に問われても、どうしていいかなんて、わからない。
「敲惺の好きにしていいよ」
両手で自分自身を抱え込むようにして答えた。
「俺じゃなくて、琳はどうしたいのさ。それを今、きいてるんだよ」
「……うん」
琳は観念して、思っていることをちゃんと言葉にしなければならないと悟った。きちんと伝えないと相手に自分の気持ちは届かない。
「おれ、ホントのこと言うと、よくわからない。……はっきりいって、経験ないから。知識もないし。だから、……敲惺が教えてくれないと……」
それでやっと、敲惺も安心したように笑った。
「わかった。じゃあ、そうしよう」
唇を近づけて、かるく触れてくる。
「ふたりでゆっくりルール作ってこう。これから、時間はいくらでもあるんだし」
そういって笑う相手に、緊張もやっとほぐれていった。それでもまだ少し、照れたような拗ねたような顔でいると、あやすように顎を親指でさすられる。
琳は改めて、自分の前にいる敲惺の裸体に目をやった。服を着ているときとは違って、脱いでみると思っていたよりスリムだ。けれど筋肉はなめらかに硬く隆起している。自分とは異なるブラウンがかった肌の色はきれいだった。
陽に焼けたのとは違う、均一で艶のある濃い色。それが遠い国の先祖から受け継がれた美しさなのだと思えば、いとおしさも湧いてくる。
もう一度、さっきのような深いキスを繰り返した。甘くてゆったりとした、優しいキスだった。
敲惺が琳のTシャツに手をかけて、首から引き抜く。琳はまだ少し湿っていた髪を乱して、上気した頬を晒した。敲惺はキスを繰り返しながら、少しずつ、手元を下に向けていった。
琳の唇を軽く舐め、指先で小さな胸の先を摘む。
「あっ」
くすぐったさに声を上げると、その拍子に上半身が跳ねた。
敲惺が口元を綻ばせてさらにキスを重ねてくる。擦られるようになでられて、自然と声がもれた。恥ずかしくて押し殺そうとすると、宥めるように唇を啄まれる。そうしながら敲惺の手がわき腹を伝っていって、琳の下着にかかった。
両側から指先が侵入してくると、そのまま引き下げられ脱がされる。琳は座っていた膝を崩して、それを手伝った。はいていたものが取り除かれると、中心が熱を持って勃ちあがっているのが露になる。
隠そうにも隠せなくなった自身を、持て余すように俯くと、敲惺がさらに表情を緩めた。
「琳、かわいいな」
それが下半身で自己主張しているものを指して言ったのだと思った琳は、膨れて抗議した。
「……どうせ、おれのは小さいよ」
「違うよ」
敲惺が笑顔になる。
「全部だよ。かわいいのは」
言いながら、迎えるように両手を広げた。
導かれて、腕をとられる。膝を立てて敲惺に近づき、腿にまたがった。敲惺の瞳にまだ欲望は現れていなくて、ただ可愛いペットでも手に入れたかのように満足そうな表情をしている。
それが安心を誘い、琳はためらうことなく敲惺の肩に手をのせることができた。ドラマーらしく筋肉の張った肩は造形も整っていて、琳は指を滑らせて、二の腕にも触れてみた。
夢に出てきたギタリストの腕とは違っていたけれど、それよりもずっと魅力的だった。触れることを許されている、という事実が今まで抑圧してきたマイノリティを解放していく。敲惺が、今ここに、自分の前にいてくれることが嬉しかった。
「琳」
唇を合わせたままでささやかれる。柔らかくてよく動く唇は、琳の戸惑いも優しく包みこんでいった。
何度もキスを重ねられ、次第に、内側から身体が溶けはじめていくのを感じる。熱と同時に痛みに似た焦燥が湧きあがった。どうにかしてほしい、どうにかしたいという欲求が高まって、腕を敲惺の首に回して、短い髪をかき抱いた。
「敲惺……おれ、どうしよ」
「うん?」
「どうしていいかわかんない」
「ん」
琳が熱い吐息をもらすと、敲惺がそれに微笑む。大丈夫だよ、と耳元で教えられ、首にもキスされた。敲惺の手のひらが、琳の背を撫で上げる。それにぞくぞくと快感が走って、琳は膝立ちのままで震えた。足の間からこぼれた雫が、敲惺の腹にあたる。なめしたように艶のある肌に、薄い乳白の跡がついた。敲惺が腰を浮かせて、さらに擦りより、琳を煽ってくる。
小さな喘ぎをあげると、「すごく、いい声」と言われて動揺してしまった。
敲惺が自分の下着に手をかけて、それを脱ぎ去る。現れたものの姿形に琳はかるく息を呑んだ。
俯いて見入ったようになっていると、敲惺は、どう? とばかりに余裕の面持ちで片頬を上げてくる。
「気に入った?」
今まで見たこともない、官能的で、挑発的な笑顔だった。
「……こわいよ」
正直な感想を口にして、それで琳は自分がそれを受け入れるつもりでいることに気がついた。
琳が発した言葉の意味を、敲惺は明確に理解したらしい。琳を抱きよせると、大きく口をひらいて自分の中指を舐めて濡らし、それを琳の背後にまわしこんだ。
「……あ」
手のひらが尾てい骨を下って、さらに奥にまで滑り込んで、触れて欲しくない場所に宛がわれる。
軽く押されて、琳は身体が粟立つのを感じた。
敲惺がゆるやかに琳を押し倒す。シーツの上に仰向けにされて不安になって顔を上げれば、相手の瞳にはさっきとは違う色が宿っていた。
じゃれあいの遊びは終わり、というサインがそこに現れている。
重ね合わせてきた唇にも、宥めるような様子はもうなくて、荒々しく攻め入るような動きで口内を嬲ってきた。
「んん……」
もう少しゆっくり、と頼もうとしたけれど、それを許さず琳の両頬を大きな手で挟みこんで深いキスを繰り返す。力では、敲惺には全く敵わない。琳が腕を掴んで押さえても、走り出した敲惺の身体はもう、止まることができなくなっているようだった。
首筋にも噛みつくようなキスを落としてくる。くすぐったいのと、気持ちいいので琳が身を捩ると、その腰をつかんで自分のものを摺りよせてきた。
その大きさと熱さに身震いする。
「……あ、はあっ」
敲惺の胸を手で押し返すと、そのささやかな抵抗もものともせず、舐めるようにして唇を胸から腹へと降ろしてくる。
琳は無意識のうちに身体をのけ反らせていた。
敲惺は琳の臍にかるくキスすると、反り立ったものの根元を手にあてて、先端から口の中に含んだ。
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